かえるて
万葉の花とみどり_かえるて 紅葉 黄葉 カエデ
秋山の黄葉を茂み迷いぬる 妹を求めむ山道知らずも
柿本人麻呂 巻二 208
『読み』あきやまのもみちをしげみまよいぬる いもをもとめむやまぢしらずも
『歌意』秋の紅葉がすばらしくついつい茂みに迷い込んでしまった。恋しい妹を探したいが、山道がわからなくなってしまったことだ。
名は蛙手状の葉形から
もみじは紅葉する植物の総称:モミジに該当する植物としては、「かへるで」といった場合のカエデ(かへるて:蝦手・加流敝弖)属のイロハモミジ(タカオカエデ)やオオモミジなどやウルシの仲間を指します。葉の形のユニークさといい赤や黄色のといい、庭園には欠かせない樹木となっている樹木です。「もみじ」は、華麗な花をつけるわけではないのですが、秋山を美しく彩ることから、万葉集には多くの歌に詠み込まれています。現在では「もみじ」というと、一般には紅葉を指しますが、万葉時代はほとんど「黄葉」と記されていました。これは、秋の深まりとともに葉の色が変わっていくことを「黄変つ(もみつ)」という動詞で表現したからで、別段万葉人が赤色と黄色の違いを識別していなかった訳ではありません。現代人が、緑色の葉を無意識に「あおい」と表現するのに近いものでしょう。次の歌でも葉が紅葉していく様子が「黄変つ」で表されています。
わが屋戸に黄変つかえるで見るごとに 妹をかけつつ恋ひぬ日はなし
大伴田村大嬢 巻八 1623
歌の「妹」「恋」は男女間恋愛を詠んだものではなく、姉が文字通り妹を慕い、贈ったものです。作者の大伴田村大嬢(おほをとめ)は、大伴旅人の弟である宿奈麻呂の娘で、異母妹の坂上大嬢に親愛の情を抱いていました。それは、田村大嬢が、万葉集に残した八首の歌のすべてが妹の坂上大嬢に贈ったものであるということからもわかります。次の藤原八束の歌においても、もみじは黄葉となっています。
春日野に時雨ふる見ゆ明日よりは 黄葉挿頭さむ高円の山
藤原八束 巻八 1571
平安時代になると「黄葉」の表現は姿を消し、ほとんどがモミジ=紅葉に入れ替わってしまったようです。次の首は小倉百人一首に採られていることでも有名です。
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき
猿丸大夫 古今集
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